No.22

 「もしかして、ことばがわかんないのかな? 征服王ウィリアムといっしょにきた、フランスねずみにちがいないわ」(歴史のことはいろいろ知っていても、アリスはいろんなことがどれだけむかしに起きたか、あまりちゃんとはわかっていなかったんだね)。そこでアリスはもういっかい口をひらきました。「Ou est ma chatte?(わたしのねこはどこですか?)」これはフランス語の教科書の、一番最初に出ている文だったのです。ねずみはいきなり水からとびだして、こわがってガタガタふるえだすようでした。「あらごめんなさい!」とアリスは、動物のきもちをきずつけたかな、とおもってすぐにさけびました。「あなたがねこぎらいなの、すっかりわすれてたから」

 「ねこぎらい、とはね!」とネズミは、かん高くてきつい声でさけびました。「あんたがぼくなら、ねこが好きになるかね?」

 「ええ、そりゃならないかもしれませんね」とアリスは、なだめるように言いました。「どうか怒らないでくださいな。でも、うちのねこのダイナをお目にかけられたらいいのに。あの子をひと目でも見れば、ねこも気に入るようになるんじゃないかと思うんです。とってもかわいくておとなしいんですよ」とアリスは、池のなかをゆったりと泳ぎながら、なかば自分に向かって話しつづけました。「それでだんろのところでのどをならしてると、手をなめたり顔を洗ったりして、すごくかわいいんです――それにあやすととってもやわらかくてすてきで――あと、ネズミをつかまえるのが名人級(めいじんきゅう)で――あらごめんなさい!」とアリスはまたさけびました。ネズミはこんどはからだじゅうの毛をさかだてていて、ああこんどはまちがいなく、本気で怒ってるな、とわかります。「もしよろしければ、わたしたちもう、あの子の話はよしましょうね」

 「わたしたち、だと!」とネズミは、しっぽの先までガタガタいわせてさけびました。「ぼくが、そんな話をするとでも思うか! うちの一族は、ずっとねこがだいきらいなんだ。いやらしい、低級(ていきゅう)で俗悪(ぞくあく)な生き物! 二度と名前もききたくない!」

 


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