No.31
-ウサギ、小さなビルを送り込む-


 それはあの白うさぎで、ゆっくりトコトコともどってきながら、困ったようにあたりを見まわしています。なにかなくしたみたいです。そして、こうつぶやいているのがきこえました。「公爵夫人が、公爵夫人が! かわいい前足! 毛皮やらひげやら! フェレットがフェレットであるくらい確実に、処刑されちゃうぞ! まったくいったいどこでおとしたのかなあ?」アリスはすぐに、うさぎがさがしているのがせんすと白い子ヤギ皮の手ぶくろだとおもいついて、親切な子らしく自分もさがしはじめましたが、どこにも見あたりません――池での一泳ぎでなにもかもかわっちゃったみたいで、あのおっきなろうかは、ガラスのテーブルや小さなとびらともども、完全に消えうせていました。

 さがしまわっていると、すぐにうさぎがアリスに気がついて、怒った声でこうよびかけました。「おやメリーアン、おまえはいったい、こんなとこでなにしてる? いますぐに家に走ってかえって、手ぶくろとせんすをとってこい!」アリスはとってもこわかったので、すぐにうさぎの指さすほうにかけだして、人ちがいです、と説明したりはしませんでした。

 「女中とまちがえたのね」とはしりながらアリスは考えました。「あたしがだれだかわかったら、すごくおどろくだろうな! でもせんすと手ぶくろをとってこないと――みつかれば、だけどね」こう言ったときに、きれいな小さいおうちにやってきました。そのとびらには、ぴかぴかのしんちゅう板がかかっていて「しろうさぎ」という名前がほってありました。ノックせずに中に入って、いそいで二かいへ急ぎました。そうしないとほんもののメリーアンに出くわして、せんすと手ぶくろを見つけるまでに家から追い出されるんじゃないかと、すごくこわかったのです。

 「へんなの、うさぎのおつかいをしてるなんて!」とアリスはつぶやきました。「つぎはダイナにおつかいさせられるのかな!」そしてアリスは、そうなったら何がおきるか想像をはじめました。「『アリスおじょうさま! すぐにいらして、おさんぽのしたくをなさい!』『すぐいく、保母さん! でもネズミがにげださないようにみはってないと』でも、ダイナがそんなふうに人に命令しだしたら、おうちにいさせてもらえなくなると思うけど!」

 


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