No.114

 このしゅんかんに、アリスのとなりから、耳ざわりな笑い声がして、アリスは白の女王(クイーン)さまに何があったのかと思いました。でも女王(クイーン)さまのかわりにそこにすわっていたのは、マトンの脚肉です。「わたくし、ここですわよ!」とスープ入れの中から声が叫び、アリスが向き直ると、ちょうど女王(クイーン)さまのおっきい人のよさげな顔が、器のふちからいっしゅんアリスに向かってニヤリとして、すぐにスープの中に消えてしまうところでした。

 もういっしゅんも無駄にはできません。すでにお客さまの何人かは、お皿の上に横になっているし、スープのおたまがテーブルの上をアリスに向かって歩いてきて、そこをどけとせっかちに合図をよこしています。

 「もぉがまんできない!」とアリスは叫んで飛び上がり、両手でテーブルクロスをわしづかみにしました。そのままグイッと強力にひっぱると、大皿小皿、お客さま、ロウソクがぜんぶ、床にガシャンといっしょくたに落ちて、山づみになりました。

 「そして あなたはといえば 」とアリスは、カンカンになって赤の女王さまのほうを向きました。彼女こそがこのバカ騒ぎの大もとだと思ったからです――でも女王さまはもう隣にはいませんでした――いきなり小さな人形くらいの大きさに縮んでしまって、いまではテーブルの上にのっかり、自分が背後にひらひらさせているショールの後を、うれしそうにグルグルとおっかけているのでした。

[イラスト: 晩餐の始末]

 ほかのときなら、アリスはまちがいなくこの光景にびっくりしていたはずです。でも、 このしゅんかんには 、もう何を見ても驚くどころではないくらい、アリスは頭に血が上っていました。「そして あなたはといえば 」と繰り返しつつ、ちょうどテーブルの上で燃えだしたびんを、まさに飛びこえつつあったその小さな生き物を捕まえました。「ゆすって子ネコにしちゃうからね、まったく!」

 


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