No.34

 「きっぷ拝見!」と車掌が、まどから頭をつっこんで言いました。すぐさまみんな、きっぷを出していました。きっぷは人間ほども大きくて、車両がそれだけでいっぱいになりそうです。

 「さあさあおじょうちゃん、きっぷを見せるんだよ!」と車掌がつづけ、怒ったようにアリスのほうを見ます。そしてすごくたくさんの声がいっせいにこう言いました(「歌のコーラスみたいだわ」とアリスは思いました)、「おじょうちゃん、車掌さんを待たせちゃダメよ! 車掌さんの時間はお値打ち一分千ポンド!」

 「すいません、ないんですけど」とアリスはおびえた声で言いました。「あたしがきたところには、きっぷ売り場がなかったんです」そしてまたもや声のコーラスがはじまります。「この子がきたところには、余裕がなかったのよ。あそこの土地は、お値打ち一ミリ千ポンド!」

 「いいわけするんじゃない」と車掌さん。「機関手から買えばよかっただろうが」そしてまたもや声のコーラスが始まりました。「機関車を運転する人だよ。なんと、煙だけでもお値打ち一雲千ポンド!」

 アリスは「しゃべってもしょうがないわ」と思いました。声はこんどはコーラスしませんでした。アリスがしゃべらなかったからです。でもすごくおどろいたことに、みんなコーラスで 考えた のです (「コーラスで考える」というのがどういう意味か、わかってもらえるといいんだけど――というのも白状しちゃうと、 このぼくは さっぱりわからないんだもの)「なにも言わないほうがいい。ことばは一言千ポンド!」

 「今夜は千ポンドの夢を見そう、絶対!」とアリスは思いました。

[イラスト: 列車の中で]


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