No.57

第 5 章 

ウールと水


  そう言いながらアリスはショールをつかまえて、持ち主はだれかな、とあたりを見まわしました。次のしゅんかん、白の女王(クイーン)さまが森を猛然と駆け抜けてきました。まるで飛んでいるかのように、両腕を左右に大きくひろげています。アリスは、とっても礼儀正しく、ショールをもって女王(クイーン)さまに会いにでかけました。

 「ちょうど飛んできたところにいられて光栄でしたわ」とアリスは、女王(クイーン)さまがショールを着るのをてつだってあげながら言いました。

 白の女王(クイーン)さまは、とほうにくれたような、おびえたような感じでアリスのほうを見つめただけで、なにか小声でブツブツくりかえすばかりです。どうも「バタつきパン、バタつきパン」と言ってるみたいです。会話をしたければ、こっちから始めるしかないな、とアリスは思いました。そこでちょっとおずおずと切り出してみました。「あの、白の女王(クイーン)さまとお見受けしますが、相違(そおい)ございませんよね?」

 「ええ、まあ確かにこの装(よそお)いは、ないも同然ですわね。 わたくしとしても こんなの、装(よそお)いになってないとは思いますよ」と女王さま。

 アリスは、会話を切り出したとたんに口論をはじめても仕方ないと思いましたから、にっこりしてつづけました。「陛下、どこから手をつけるのをお望みかおっしゃっていただければ、できる限りのことはしてさしあげますけれど」

 「でもわたくしは、ぜんぜんしてほしくなんかございませんですのよ」とかわいそうな女王さまはうめきます。「わたくし、自分で過去二時間にわたって、着付けをし続けてきたんでございますから」

 アリスの目から見ると、だれか別の人に着付けをしてもらったほうがずっとましなようでした。女王(クイーン)さまは、まったくどうしようもなくひどい身なりなのです。「なにもかもひんまがってるし」とアリスは思いました。「それにピンまみれ!――ショールをまっすぐにしてさしあげましょうか?」最後のところは声に出して申しました。「まったくこのショール、どこがおかしいのやらぜんぜん」と女王さまは、ゆううつそうな声で申します。「えらくご機嫌ななめでございましてねえ。あっちもこっちもピンでとめてやったのに、ぜんぜん言うことをきいてくれやしないんですの!」


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