No.68

第 6 章 

ハンプティ・ダンプティ


 でも、たまごはどんどん大きくなるばかりで、どんどん人間じみてきました。あと数メートルのところまでくると、そのたまごには目も鼻も口もついているのがわかります。そして間近にきてみると、それがまさに他ならぬハンプティ・ダンプティだというのがはっきりわかりました。「ほかに考えられないわ! 顔中にハンプティ・ダンプティの名前が書いてあるくらいはっきりわかる」とアリスはつぶやきました。

 それはそれは巨大な顔だったもので、百回書いてもまだ余ったでしょう。ハンプティ・ダンプティは高い壁のてっぺんに、トルコ人みたいにあぐらをかいてすわっていました――それもすごく薄い壁で、どうやってバランスをとっているのか、アリスは不思議でたまりません――そして目はしっかりとあさっての方向に固定されていて、こっちのほうをまるで見ようともしないので、実はぬいぐるみなんだろうとアリスは思いました。

 「それにしても、ほんとにたまごそっくりよねぇ!」とアリスは声に出していいながら、腕を広げてかれをキャッチしようとしていました。いまにも落ちてくるものと確信していたからです。

 ハンプティ・ダンプティは、ながいこと何も言いませんでした。そして、口を開いたときには、アリスのほうを見ないようにしています。「たまご呼ばわりされるとは、 実に 不愉快千万―― 実に !」

 「たまごそっくりに 見える って申し上げたんです」アリスはていねいに説明しました。「それに、世の中にはすごくきれいなたまごもあるじゃないですか」とつけくわえて、なんとか自分のせりふをほめことばに仕立てようとしてみます。

 「世の中には」とハンプティ・ダンプティは、さっきと同じく目をそらしています。「赤ん坊なみの常識もないようなやつらもいるんだからな!」

 アリスは、なんと答えていいやらわかりませんでした。まるっきり会話らしくないわね、だってハンプティ・ダンプティは、 あたしに向かっては なにも言わないんだもの、とアリスは思いました。いや、さっきのせりふだって、見た目には近くの木に向かってのせりふです――そこでアリスは立ったまま、静かに暗唱しました:――

 


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