No.79

 

ぼくは棚からコルク抜きを手に
自分で魚を起こしに行った。

そしてドアに鍵がかかって悩苦(のうく)
押してはひいては蹴ってはノック。

そして扉がしまっていると見て
ぼくがすかさずまわした取っ手――」

 長い間がありました。

 「それだけ?」とアリスはおずおずとたずねました。

 「これだけ。さよなら」とハンプティ・ダンプティ。

 これっていきなりすぎないかしら、とアリスは思いました。が、立ち去れというのを ここまで ほのめかされると、このままいたらかなりお行儀わるいな、という気がします。そこで立ち上がり、手を差し出しました。「さよなら、またお目にかかるまで!」となるべく明るい声で言います。

 「またお目にかかることなんか、 あったとしても わたしには見分けがつくまいよ」ハンプティ・ダンプティは怒ったように返事をしながら、指を一本差し出してアリスに握らせました。「あんた、ほかの人間とえらくそっくりだからねえ」

 「ふつうは、顔で見分けるものですけれど」とアリスは慎重にもうします。

 「わたしが言ってるのも、まさにそういうことだよ。あんたの顔ときたら、ほかのみんなとおんなじだ――目が二つ、そんな具合に――」(と親指で空中に場所をしるし)「鼻がまんなかで、その下に口。いつだって同じ。たとえば目が二つとも片っぽに寄ってるとかすれば――あるいは口がてっぺんにあるとか――それならちったぁ見分けがつこうってもんだがね」

 「それじゃみっともないでしょう」とアリスは反対しましたが、ハンプティ・ダンプティは目を閉じて「試してもいないくせに」と言っただけでした。

 アリスはもうしばらく待って、ハンプティ・ダンプティがまた口を開くかどうか見てみました。でも二度と目を開きもしなかったし、アリスをまったく意に介する様子もなかったので、もういちど「さようなら!」と言ってみました。そしてこれにも返事がなかったので、アリスは静かにそこを立ち去りました。でも歩きながら、どうしてもつぶやかずにはいられませんでした。「まったく、どうしようもなく腹のすえかねる――」(このことばは口に出していいました。こんなに長いことばを言えるのはすごく気が休まったからです)「どうしようもなく腹のすえかねる人にはたくさん会ったけど、その中でもあれほど――」でもこの文は結局最後まで言えませんでした。というのもまさにその しゅんかん、森中に「グシャッ」というすさまじい音がとどろきわたったからです。

 


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