No.91

[イラスト: 騎士たちの決闘]

アリスは、おっかなびっくり隠れ場所からのぞいて、決闘を見物しながらつぶやきました。「さてさて、決闘の規則ってなんなんだろ。規則その一は、片っぽの騎士(ナイト)の一撃が相手にあたったら、相手は馬から転げおちて、はずれたら自分が馬から転げ落ちるってことみたい――それと別の規則は、どっちもこん棒を、指人形みたいに腕で持つってことみたいだわ――転げ落ちるとき、どっちもすっごい音をたてるんだなぁ。まるで火かき棒の束をまるごと鉄格子の中に落としたみたい! それと、馬たちはすごくおとなしいのね。まるでテーブルみたいにじっとして、二人が落ちたりまたがってりしてもぜんぜん動かないわ!」

 アリスの気がつかなかったもう一つの決闘の規則は、落ちるときには必ず頭から落ちるということのようでした。そして二人がそうやって、仲よくならんで落っこちて決闘は終わりました。そして二人は立ちあがると、握手して、そして赤の騎士(ナイト)は馬にまたがると、パカパカと走り去っていきました。

 「輝かしい勝利だっただろう!」と白の騎士(ナイト)は、ぜいぜい言いながら近寄ってきました。

 「わかんない」とアリスは疑わしそうに言いました。「あたし、だれの捕虜にもなりたくない。女王さまになりたいの」

 「うん、なれるよ。次の小川をこえればね。ぼくが森のはしまで安全に送ってあげよう――そしたらぼくはもどんなきゃ。それがぼくの動きのおしまいだから」と白の騎士(ナイト)が申します。

 「ありがとうございます。かぶとをぬぐの、おてつだいしましょうか?」明らかに、騎士(ナイト)一人では手にあまることのようでした。が、アリスはなんとかいっしょうけんめいゆすって、やっと騎士(ナイト)のかぶとをぬがせるのに成功しました。

 「これでやっと楽に呼吸ができる」と騎士(ナイト)は、ぼさぼさの頭を両手でうしろになでつけて、やさしそうな顔と、おっきくておだやかな目をアリスのほうに向けました。こんな変なかっこうの兵隊さんは、これまで見たことないや、とアリスは思いました。

 身につけた甲冑はブリキで、どうもぜんぜんからだにあっていないようです。さらに肩からは変な形の木の箱がかかっていて、それが逆さまで、ふたがぶらぶらと開いたままぶら下がっています。アリスは、すごくおもしろがってそれをながめました。

 「見たところ、ぼくの小箱に感動してるようですね。それ、ぼくならではの発明なんですよ――服とかサンドイッチとかを入れとくんです。さかさにして運ぶのはですね、雨が中に入らないようするためなんです」



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