No.116

 それともう一つ、このお話にとって決定的だったのが、ここにも入れたイラストだ。ルイス・キャロルは「アリス」をちょっと書き直している、とさっき書いた。何度めかの書き直しで出版したときに、イラストを描いたのがジョン・テニエルという人だ。そして人がかいたこのイラストは、どういうわけかアリスという子のイメージを完全にきめてしまった。じつはこのアリス、じっさいにこのお話を最初にきいた、三人姉妹のアリス(つまりほんとのモデル)とはぜんぜん似ていないんだって。でも世界中の人が、「アリス」といって思いうかべるのは、このイラストのイメージだ。ちがったイラストをつけようとした人もいっぱいいる。でも、テニエルをしのぐものは一つもない(足もとに及ぶものさえない)。ディズニーがこれをアニメにしたんだけれど、そのときもこのテニエルの絵に完全にえいきょうされているし、金子国義という日本でちょっと有名な画家が、アリスが大好きで自訳自挿画のアリス本を先日出したんだけれど、そのイラストもテニエルの呪縛からは逃れられていない。

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 もともと子ども向けのお話ではあるんだけれど、このお話はなんだかみょうに、おとなたちに人気が出ちゃった。この「アリス」をつつきまわしていろんな出まかせや思いつきをいう人はたくさんいる。まあ出まかせやおもいつきにも、おもしろいの、つまんないのといろいろある。

 たとえばぼくたちのいるこの宇宙は、どんどんふくらんでいることがわかっているんだけれど、このお話でアリスがのびたりちぢんだりするのは、その宇宙のぼうちょうと似てるじゃないか、とかね。こういうたとえばなしは、人によってはおもしろいな。


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