No.5

「巡礼さま。」その女性は言った。「あなたのご信心はあまりにもお行儀よく、お上品でございます。聖者にだって手はございますもの、巡礼がお触れになってもよろしゅうございます。でも、接吻はいけませんわ。」

 「聖者には唇がないのでしょうか、それに巡礼には?」ロミオは言った。

 「いえ。」娘は言った。「お祈りに使わなければならないのですから、唇はございます。」

 「それならば、私の愛する聖女さま。」ロミオは言った。「私の祈りを聞き届けてください。でなければ、私は絶望してしまいます。」

 このようなほのめかしや、気の利いた愛のせりふを交換していると、娘は母親に呼ばれて、どこかへいってしまった。ロミオは、彼女の母はだれか、と尋ねて、あの類をみない美しさでもって彼の心を魅了した若い娘は、ジュリエットという名で、モンタギュー家の大敵キャピュレット卿の跡取り娘であることを知った。ロミオはそうとは知らずに敵《かたき》に思いを寄せてしまったのだ。このことは彼を苦しめたけれど、愛を捨てることはできなかった。

 


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