No.6

一方、ジュリエットの方も、ロミオと同様に苦しんでいた。というのは、彼女もまた、さっき言葉を交わした紳士がロミオであり、モンタギュー家の一員であることを知ったからである。驚くべきことに、彼女もロミオに対して、熱情的な一目惚れをしてしまっていたのだ。不吉な恋の始まりのようにジュリエットには思えた。彼女は敵《かたき》を恋しなければならなかった。ロミオは、彼女にとっては敵《かたき》の中でも、家族のことを思えば何をおいても憎むべき人のはずだった。にもかかわらず、愛してしまったのである。

 真夜中になったので、ロミオは友人たちと宴会場をあとにした。しかし、友人たちはすぐにロミオを見失った。ロミオは心を奪われたあの人がいる家を立ち去ることができず、ジュリエットの家の裏手にあった果樹園の塀をとびこえたのだ。そこで彼が新しい恋についてあれこれ考えていると、間もなく、ジュリエットがロミオの頭上にあった窓から姿を見せた。その並はずれた美しさは、まるで東からのぼってくる朝日の光のように輝いて見えた。果樹園をほのかに照らす月は、この新たに出現した太陽の素晴らしい輝きをみて、悲しみに沈み青ざめているように、ロミオには見えた。彼女が手の上にほおをよりかからせているのを見て、彼は熱情がゆえに、ぼくがその手にはめる手袋だったらなあ、そうすれば彼女のほおに触れられるのに、と思うのだった。

 


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